相続後の手続き (14)死亡保険金は遺産分割が必要か?

 死亡保険金は、民法では受取人の固有の財産とされ遺産に属さないとされていますが、 相続税法においてみなし相続財産として相続税が課税されます。 相続財産ではない以上、死亡保険金を遺産分割することはできません。
 死亡保険金は、受取人が指定されているものとそうでないものがあります。
 ◆指定されているもの →その指定されている受取人の財産となる。
 ◆指定されていないもの →「相続人」とされているだけのものなど
        法定相続分に相当する金額がそれぞれの相続人の財産となる。

 『遺留分』という言葉があります。 (詳しくは →遺言の書き方(7)遺留分とは?
 簡単に言うと、遺言があった場合に、請求することができる相続人の取り分のことです。
 しかし、死亡保険金には遺留分の請求は原則できません。 死亡保険金が誰かひとりに集中していたとしても、他の人は自分の取り分を請求できないのです。

被相続人Aが死亡しました。遺産総額は1,000万円。
  遺言ですべて妻Bに相続させる旨が指定されていた。
  この被相続人Aは多額の生命保険をかけており、その死亡保険金の金額は1億円。
  この生命保険の死亡保険金受取人がすべて「次男D」となっていた。
  法定相続人: 妻B・長男C・次男D

  長男Cは全く遺産を相続できなかった。どれだけ自分の取り分を請求できるか?

遺留分の適用があるのは、遺言で指定されている遺産のみ
被相続人Aの遺産 1,000万円
長男Cの遺留分 1/8(法定相続分1/4×1/2)

遺留分125万円に対して、遺留分の減殺請求をして、自分の取り分を請求できる。
次男Dが受け取った死亡保険金は、次DCの固有の財産であるため、長男Cは遺留分を請求できない!
妻Bの受取額
1,000万円-125万円=875万円
長男Cの受取額
(遺留分)125万円
次男Dの受取額
(死亡保険金)1億円
上記のように、死亡保険金の受取人の指定の仕方次第で、相続人の受取額は大きく異なってきます!

※上記は分かりやすくするために極端な例にしています。 受取人の指定が次男Dによる誘導である場合などには、裁判で受取金額が変わってくる場合もあります。

☆下記の判決でもみなし相続財産については相続財産に属さないという判決が出ています。
●東京高裁判決昭和55年9月10日
生命保険金は受取人の固有の財産であって遺産に属しない。
①保険金は民法903条(相続分の計算の特例)による遺贈又は贈与のいずれにも該当しない。
②被相続人がこれを特別受益に含めるなどの特段の意思表示がない限り、特別受益と解しないほうがその通常の意思に適する。
●最高裁 昭和55年11月27日
死亡退職金の受給権は相続財産に属さず、受給権者である遺族が存在しない場合に相続財産として他の相続人による相続の対象となるものではない。
●最高裁 昭和60年1月31日
労働者が労働契約の継続中に死亡して退職金が支給される場合、法律や条令、就業規則等で受給権者が定められている場合には受給権者の固有の財産として認められる。

 生命保険は、相続税の納税対策などで大きな役割を担うほか、遺産総額にも大きな影響を与えます。 いくら生命保険をかけるかだけでなく、誰を保険金受取人にするのかまで、しっかり熟考して生命保険の契約に臨んでほしいと思います。