相続後の手続き (10)相続放棄の申述

 一言で相続するといっても、被相続人の権利義務を承継する方法としては、3つの方法があります。

プラスの財産
 マイナスの財産
単純承認 限定承認 相続放棄
プラスの財産もマイナスの財産も引き継ぎ、プラス財産だけでは不足するマイナス部分は自分が負担する。 プラスの財産の範囲内でマイナス財産を 引き継ぐ プラスの財産も マイナスの財産も すべて放棄する

単純承認 (民法第九百二十条) 条文を確認!
 単純承認とは、被相続人がプラスの財産もマイナスの財産もすべて無条件で承継するものであり、最も一般的な相続の仕方です。 単純承認には特に手続きは必要なく、放棄や限定承認の申し出を行わなければ、単純承認したことになります。

単純承認したとみなされるケース
① 相続人が3ヶ月以内に相続の放棄もしくは限定承認をしなかった場合
② 相続人が相続財産の全部又は一部を処分した場合
③ 相続人が相続の放棄や限定承認をした後でも、相続財産の全部もしくは一部を隠したり、 私的に使ったり、わざと財産目録中に記載しなかった場合

限定承認 (民法第九百二十二条) 条文を確認!
 限定承認とは、「借金は相続した財産の範囲内で支払う」という条件付きで相続するものです。
 相続人が数人いる場合に限定承認しようとするときは、相続の開始があったことを知った日から3ヶ月以内に、 相続財産の目録を作成し、相続人全員が共同で家庭裁判所に申し出る必要があります。
 詳しくは、→(11)限定承認の申述

相続放棄 (民法第九百三十八条) 条文を確認!
 相続人は、相続する意志がなければ、自由に放棄することができます。 相続の放棄とは、財産の受け入れを一切拒否することをいいます。 相続の放棄をする場合には、相続を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に申述しなければなりません

① 民法上、相続人でないものとみなされる
② 代襲相続は認められない
③ 各相続人が単独で放棄できる
④ 相続税法上、相続放棄があった場合にはその放棄がなかったものとして基礎控除等の計算を行う

重要 相続の放棄をしても取得することができる財産があります!
 死亡保険金などのみなし相続財産は、被相続人の本来(民法上)の財産ではなく受取人(又は契約者)固有の財産と考えられるため、 相続放棄をしても受け取ることができます。
(注意)この場合、相続税の非課税枠(500万円×法定相続人の数)は使用できません。

 被相続人が生前に多額の借金を抱えている場合、相続の放棄をしても取得できることをうたい文句に 保険加入を勧める会社もあります。 個人的には、相続人の生活資金を確保する意味で、借金の相続の放棄を前提とした生命保険の加入も必要と考えています。 ただ、債務不履行にされた銀行などになんだか申し訳が立たない気がしてしまいます。
 以前関わらせていただいたお客様で、ご主人様が事業で多額の借金を抱えていたため相続を放棄したが、 3億円の死亡保険金を受け取ったので、相続の後は安堵して暮らしている、という方がいました。 もちろん、お金の価値は人それぞれ違いますが、相続を放棄することを前提に生命保険に入るならいくらぐらいの保険金が妥当なんだろうか、 と考えさせられました。